ああ、そうだ、ゆう、お前だ。そのダウンだって、まだ押し入れに取ってあるんだ。
 おおかみ被害はその時確認されて居なかったし、かまれた跡もなかった。だから、というより数日前まで……お父さんはずっと、お前をヒトの子として育ててきた。初めは親を探したんだが、一向に見つからないのと……

「お母さんがね、この子は手放さない、そうお父さんに言ったのよ」

 元の親の元に返すべきだ、お父さんはそう言ったんだが。母さんは頑として聞かなかった。
 それとあの時、たしか……

「たしか?」

 ……いや、なんでもない。気のせいだ。ともかく……

「そうよ、ゆう。それからずっと、あなたは私たちの大事なこどもなのよ」
「……そっか……わかった……ありがとう……」

 すまないな、ゆう。こんなタイミングで告白することになって。

「……いいよ、べつに」

 それで、樫田のおじい様に、ヒトとおおかみについて、二人で学んだ。この子は村ではもう少ない、ヒトの子だ。おおかみが必ず狙う。決しておおかみにしてはならない。その一心で、お前を守ってきた。

「だからか。おおかみが僕や沙羅を狙ったのは」

 ああ。恐らくそうだ、と初めは思っていた。

「初め?」

 お前が角田屋でかまれるまではな。

「私、焦ったの。このままではおおかみになってしまうって」

 ああ。でも、違った。お前はおおかみにならなかった。お前は「新月のモノ」の、それも「始祖」の力を持っていた。

「ああ、それなんだけど……」

 ……