「……なれそめは初耳だけど、そこ重要?」

 ゆう、話の腰を折るんじゃない……まあ、ただの昔話になってしまったな。それで、二年ほど付き合って、母さんが二十歳、お父さんが三十歳の時、母さんが妊娠した。男の子だった。そろそろ結婚を……と考えていた矢先だったが、下町のご両親は……その……ひどく怒ってな。

「デキ婚だもんね」

 ゆう、そうだ、その通りだ。おじいちゃんには殴られたな、確か。

「はは。……まあ、それで僕が産まれた訳だ」

 ……いや、違う。

「は?」

 その赤ちゃんは……

「流産しちゃったの」
「……へ? なにそれ、じゃあ……」

 母さんもお父さんも、ひどく落ち込んでな。母さんは毎日塞ぎ込んでしまった。それで半年程経ったある日。大祇神社へお参りに行ったんだ。あれは確か……寒い冬の日だった。雪がちらほら降っている中、本殿の前で手を合わせた。また、赤ちゃんを授かれますように、と。

「ええ。……そしたら、聞こえたの。泣き声が」

 ああ。母さんが赤ちゃんの泣き声が聞こえたというんだ。お父さんには、聞こえなかったが。どこから、と探しまわる母さんに付いていくと……本殿の脇、洞窟の入り口の赤い柵の下に、オレンジのダウンの上着に包まれた、まだへその緒も付いている小さな赤ちゃんが、冷たい石畳の上に置かれていたんだ。

「まさか……それって……」