「大丈夫なもんか。ひどいじゃないか。なにも言わずに居なくなって、何も言わずに死んじゃっていて。何も言わずにベルを食べていたなんて」
「ゆうちゃん?」

 沙羅が異変に気付いた。

『……すまない。愛するきみには、ないしょにしておきたかったんだけど』
「どうして言ってくれなかったの? そしたら逃げたのに。二人で、どこへでも」
「ゆうちゃんってば」

 扉の外から声をかけている。

『それは……できないんだ。私はここで殺されなければならなかった』
「そんな、おおかみのことなんて知らないよ! 僕にはベルが大切だったのに!」
「ゆうちゃん、だれと話しているの?」

 だんだん幼馴染の声が大きくなる。

『膝を折るしかなかったんだ。人質を取られていたから』
「人質?」
「ゆうちゃんっ!」
『私の……大切な人だよ。この世でいちばん』
「……ひどいよ。愛してるのは僕じゃないの?」

 ゆうにはベルベッチカの言葉がショックで、沙羅の声は届いていない。

「おじいちゃん、ゆうちゃんがっ!」

 ついにはおじいちゃんを呼びだした。

『はは。愛している、の種類が違うよ』
「種類……?」
『ほら、きみを好きな女の子が、心配してる。行ってあげなよ』

 ……