「たんけんいくひとー!」

 令和六年六月四日、火曜日。五年一組の教室、放課後。
 黒板消しがかりの美玲が黒板をごしごしと消している。教室にひとつしかない黒板消しはぼろぼろで、ぜんぜん消えない。何文字か消しては、窓に手を出して校舎のかべでぱんぱんとはたく。教室に、チョークのけむりと臭いが入ってくる。
 そんな放課後、翔が手をあげて大祇神社の森へのたんけん隊員を募集する。

「いくいくー!」

 クラスで一番遠い下町のはしっこから来てる、金髪の──もちろん地毛じゃない──蒼太がいちばん最初に名乗り出た。

「あたしも!」

 赤いリボンのツインテールの、小さいくせに気が勝っている、沙羅が次に手をあげる。

「おれも!」

 男子でいちばん背の低い、でもいちばん頭の冴える、(わたる)も行きたがった。

「ボク、パスー」

 なぜか一人称がボクのオタク少女、美玲が黒板消しをはたきながら叫ぶ。

「……ほかはー? おい、ゆう、来いよー」
「ああ、いくいく」

 ランドセルに教科書を入れるのに夢中になっていて、まったく聞いていなかったゆうも、あいまいに返事をした。いや、ちがう、考えごとをしていたのだった。