昔。この世界には、みっつの種族があった。
「ヒト」と「満月に属するモノ」と「新月に属するモノ」だ。
 満月に属するモノ。沙羅やゆうくんが出会った、あの黒い獣「おおかみ」だ。ヒトの世界に溶け込み、ヒトに擬態し、ヒトを喰らう。かまれたヒトは、おおかみになる。そしてまた、ヒトをかむ……満月に属するモノは、そうやってひそかに数を増やしていた。
 もともと、彼らは世界中のあちこちにいた。西洋では「オオカミ男」として名が通っておる。この国にも古くからヒトと共存していたのだな。
 そんなある時。ヒトしかいなかったこの村に、一人の「おおかみ」がやってきた。それも、そのおおかみは、「始祖」だった。

「始祖って?」

 沙羅、そういう名前がある訳では無い。
 私たち一家が、そう呼んでいるだけだ。

「ほかのおおかみとは……違うんですか?」

 そうだ、ゆうくん。……おおかみは、かむことでヒトをおおかみに変えることが出来る。
「始祖」は、その原初。数を増やした言わばコピー達の「オリジナル」という訳だな。アリで言うと女王アリと言うところだ。