ただいま、お父さんが帰ってきた。

「おかえりなさい、あなた。……樫田のおじい様が」
「おお、毅さん。こんばんは。おじゃましてさせていただいておるよ」
「ああ、樫田さん。これはこれは。どうぞ、ゆっくりしていってください」
「それなんだがね……ゆう君に、村のことを……」
「ああ……そうですか。私も今日、話そうと思っておった所です」

 大人たちは玄関でしばらく話した後、リビングに入ってきた。

「ゆう。きちんと家にいたか? おお、沙羅さん。ゆうといつも遊んでくれてありがとう」
「相原先生! 今日はお招きありがとうございます!」

 沙羅が背筋を伸ばして、きちんとあいさつをした。

「まあ、なんていい子なのっ! ゆうちゃん、少しは見習いなさい」

 お母さんが感激して沙羅にハグをする。

「沙羅は猫かぶりなんだよ」
「うっさいわねえ!」

 げしっ。さっきまでしおらしくしてたくせに、大人の前だとローキックだ。

「着替えてくる。夕ごはんは……なんだこれは。頼みすぎだ」
「いいじゃない、久々のお客さまよ」
(やっぱり多すぎじゃん。だいたい、僕はトマトジュースしか飲めないんだぞ)

 ゆうは心の中で毒づいた。お父さんは学校用のスーツを着替えに寝室に入った。

「ささ、みなさんテーブルについて。沙羅ちゃん、なんでも食べてね。大好きなはまちのお刺身もあるわよ」
「ありがとうございます! うわあ、おいしそう!」
「ゆうちゃんは……はい、これ」

 トマトジュース入りのマグカップを、とんと目の前に置かれた。