おばあちゃんの視線が感じなくなるまで走った。
 しばらく走って、手にした溶けかけたアイスを頬張ろうとして……食べられないことを忘れていた。仕方ないので田んぼに捨てようと、用水路を覗いたその時。

 ごぽっ……

 水の音が大音量で頭の中で響いたかと思うと、息が出来ない。
 視界が茶色く染まっている。

『ぎああああっ』

 絶叫があがる。そちらを見ると、茜だったおおかみが美玲の喉元を食いちぎっている。
 美玲! そう叫ぼうとすると口の中に水が流れ込んできた。

「ごぼっ、ごぼぼっ」

 ここでゆうはようやく用水路に頭をつけていることに気が付く。だが、顔が上がらない。まるで水に吸い寄せられているように。

「ごぼっ、ごぼっ……」
『ベルベッチカさんには、こっちに来てもらいましょう』

 あゆみ先生がにっこり笑う。

『ゆう、ここにいろよ』
『ここにいなよ、ゆーくん』

 そうこうしているうちに、意識がぼうっと遠くなってきた。
 ああ、死ぬのか。そんなことを考え始めていると……

『きゃあっ! 翔のおじさんっ、はなしてぇっ』

 ゆうはハッとして、叫んだ。

「やめろ──!」

 気が付いたら炎天下の中、用水路の横で立っていた。
 ゆうの右手に持っていたアイスキャンデーは、溶けて棒だけになっていた。ハズレだった。

 ……