ゆうは、大祇神社を目指した。翔を誘おうかと思ったけど、やめた。今日もカンカン照りで、昼前でもとても暑い。キャップの下に汗をかきながら、山を下って村をつらぬく道路にでた。
 そういえば、あれから角田屋に行ってない。おばあちゃんがおおかみになった、あの店。
 ……そしてその、角田屋の前まで来た。お店は、普通に開いている。

「いらっしゃい」

 角田のおばあちゃんは、なにもなかったかのようないつもの優しい声で出迎えた。
 声をかけると、開いてるんだか開いてないんだかわからない目で、ゆうを見た。

「体、なんともないの?」
「なーにをいっとるんじゃが。元気いっぺえだよ」

 ……なにも、変わらないように見える。……本当なのだろうか。だって目の前であんなに体をひしゃげて変わったのに。でも、店の様子も、おばあちゃんも、なにかが変わっているようには見えなかった。
 このまま出ていくのも申し訳ないので、アイスを一本買った。いつもの、ソーダ味。お礼を一つ言ってぺりぺりとフィルムをはがしていると。

「うーまかったべなあ、あの肉はよぉ」

 ぞくり、おばあちゃんを振り返る。おばあちゃんはにこにこして、舌なめずりをした。

「うーまかったべなぁ。ゆうくんは、食っだかい」

 急に恐ろしくなって後ずさった。そのまま逃げるように店を後にした。なにも、言えなかった。
 ……数歩走って、止まった。視線を背中に感じる。舌なめずりするような、あの視線を。
 振り返る。座布団に居たはずのおばあちゃんが立っている。

「うーまかったべなぁ」

 開いてるんだか開いてないんだかわからない目で。

 ゆうを見ていた。