一、二分位してドアが開いた。そして満面の笑みで紙袋を差し出した。十五冊くらい入っている。

「あい! 第一部、全十六巻!」
「あ、ああ……」
「ほんとはねえ、第三部から読むとぐっとくるんだけどねえ、初心者はやっぱ第一部から読むべきだと、ボクは思うんだよねえ!」
「……ありがとう」

 美玲だ、いつもの美玲だ。ゆうは十六冊の少年マンガの入った紙袋を受け取った。

「推しが決まったら教えてね!」

 そう言って、ドアは閉まった。
 なんだか……ものすごくホッとした。

「てか、重っ」

 これを持って沙羅の家に行くと思うと、気が滅入った。……けれど、その心配は、無用だった。

 ゆうの家と同じような茶色い壁に引き戸、朱色の瓦屋根。この村のほとんどの家と同じ見た目の、山に溶け込んだ、沙羅の家。ぴんぽーん。……返事はない。
 ぴんぽーん、もう一度鳴らす。けれどこの時は、沙羅が出てくることはなかった。

 一旦家に帰って、マンガを玄関に置くなりすぐに家を出た。

「あ、ちょっと」

 お母さんの呼びかけには答えずに。

 ……