まる……ばつ。

「どこへ行くの?」
「沙羅のとこ。あと……美玲の」

 まる。丸つけをする手が止まった。

「……だめ?」

 お母さんはプリントを見つめたまま、何か考えている。

「十分あれば行ける」

 そしてひとつ、ため息をついて言った。

「確かめないと、気が済まないのね。……誰に似たのかしら」

 目を上げて、ゆうを見た。

「わかった。行ってきなさい」
「ありがとう!」
「ただし。なつやすみが終わるまで、しばらくは家にいて。あなたは、新月なんだから」

 またゆうの理解できないことを言われた。いい加減うんざりしてきた。

「だからそれなんなんだよ」
「夜話すわ。行っていいわ。……まちがい、直してからね」

 そう言って、プリントを返した。九十五点。

 ……

 沙羅の家は、ゆうの家の前の細い山道を翔の家の向こう側へ──学校とは反対側──にちょっと行った先にある。美玲の家はさらにそこからしばらく行った所だ。
 沙羅も気になるけど、とりあえず美玲の家に向かった。右手に苔むしたコンクリートブロックの壁を横目に見ながら五分ほど坂を上った。見えてきた。
 白い壁、白い出窓、黒い屋根。白いバラが玄関から庭まで植えられている。あのお屋敷ほどじゃないけど、村の中ではモダンでオシャレな家。玄関には透明でセンスのある表札が付けられていて、ここにもバラの絵があしらわれている。
 ……橋立 亨、愛子、美玲。
 美玲のお父さんとお母さんは、デザイナーをやっていたはず。東京にあるオフィスとも在宅でやりとりしているみたいだ。美玲は、たしか幼稚園の年中さんの頃に引っ越して来たんじゃなかったっけ。
 意を決して、インターホンを押す。ぴんぽーん。

「はい」
(……え?)

 なんで。ゆうはわからない。自分の知っている、妙に高いあの声がするのか。

「ゆーくん? 今行くー」
(だって……だってお前は……)

 ウルフカットの頭に寝癖をつけて、橋立美玲がドアを開けた。