じりりりり。
 目覚まし時計が七時半を知らせて鳴りひびく。ここは……知っている、自分の部屋だ。そう理解するのに、何秒かかかった。
 かちゃ、とりあえずうるさい目覚まし時計を止める。
 令和六年、七月二十二日。破いた記憶のない日めくりカレンダーが進んでいる。
 二十二日ということは、祭りは……終わったんだろうか。あの時起きたことを記憶の中を探る。
 美味しい肉を食べてベルの声が聞こえてみんながおおかみになって。……美玲が死んで……沙羅と逃げて……それから……それから? どんなに頭を抱えても、その後が思い出せない。
 一階から家族の気配がした。ゆうは自室のふすまを開けた。

「……おはよ」
「おはよ、ゆうちゃん」
「おはよう」

 じゅわあ、いい匂いがする。お母さんはコンロで目玉焼きを焼いている。
 ぽろろん、ぽろん。お父さんはテーブル横のヤマハのアップライトピアノの鍵盤をいくつか叩いて、調律の確認をしている。

「席に着こうか」

 お父さんはピアノのふたを静かに閉じると短くそううながした。日常だ……あまりに日常だ。何も変わらない。昨日の「あれ」は何だったのかと思う。

「はい、あなた」

 お父さんの席にご飯と納豆、目玉焼きが置かれる。お父さんは目玉焼きにソースをかけた。

「はい、ゆうちゃん」

 テーブルに置かれたのはトマトジュースだ。空と雲が描かれた来客用のマグカップに入っている。

「何にも食べないより、少しはいいわ」

 お母さんも笑って席に着いた。お父さんは口に目玉焼きを運びながら、ゆうを呼んだ。

「なに?」
「話がある。夜、必ず家に居なさい」