そんな彼の方を見ていたら、いつの間に逸瑠辺(へるべ)さんが真横に来てて、ヒヤッとした。
 すんすん、匂いをかいできた。

「いい匂い」
「へ?」
「とても……甘い……いい匂い。美味しそう」

 ゆうの首筋に、顔を近付ける。マスク越しに、口をあーんと開けているのがわかる。ふわふわの金髪が、ちくちくと頬に当たる。アクアマリンみたいな水色の目が、ゆうをつらぬいている。

「あの……逸瑠辺(へるべ)さん?」
「……そうか、わかったよ」

 きみが私の……最後までは聞こえなかった。バカでかい声で割り込んできたやつがいたせいで。

「はーい、ベルちゃん、どーぞ! まじさいこーにうまいから! くってみ!」

 ん、そう言ってゆうたちのソーダ味の水色のオアシスを差し出した。マスクを付けた同じ色の目をした女の子は、その冷たいキャンディーを、見つめたまま止まっている。六月の蒸し暑い空気が、容赦なくぽたぽたとアイスを細らせる。

「……えと。はい。これ。……くって?」
「私、食べれないと言ったよ」
「え。アイス、嫌いなの? ……まじ?」
「さっきから言ってるじゃないか。食べられないんだ」
「またまたー。食べてみって。まじうまいから。……ほら、そんなん外してさ」

 翔がアイスを持った右手を伸ばして、彼女のマスクに触ろうとした。そのしゅんかん。思いっきりその右手をはらった。

「やめてっ!」

 可哀想に、少年のなけなしのお小づかいで買ったアイスは、角田屋の店先のコンクリートの床に落ちた。

「何すんだよっ」
「しつこいよ! いやなんだ! 犬くさいんだよ、きみも、この村のひとも、みんな!」

 そう叫ぶと、店から駆け出して、学校の方へ走っていった。
 残されたゆうたちは、見つめ合った。

「おれ、飼ってないんだけど……」

 アイスはじんわりとコンクリートに水たまりを作った。

 ……