「沙羅! 早く!」
「おじいちゃんっ!」

 沙羅のおじいちゃん、樫田正夫宮司が六畳間で手まねきしている。沙羅が先に部屋に飛び込んだ。

「ゆうちゃん、早く!」
「今い──」

 ぱしーん。

 ゆうは、雷に打たれたかのように吹き飛び、二メートル先の階段に頭を打った。ゆうはぶつけた後頭部を押さえる。

「……っつ、たた……」
「なんでっ? おじいちゃん、なんで結界を通れないのっ?」
「……ゆう君のお母さんが言ってたことは本当だったか」
「おじいちゃん、なんとかしてよ、ねえ! ……ゆうちゃん、逃げて! ゆうちゃんっ」
「うわぁっ」

 どかっ。

 ……

「いやっ、いやあぁぁぁあああ!」

 沙羅の絶叫がひびきわたる中。相原ゆうは幼なじみの「ニンゲンの」少女の目の前で。内蔵を引きずり出され、心臓から腸に至るまで……眼球も、舌も。おおかみに、すべてを食べ尽くされた。

 ……はずだった。

 ぴくん。空っぽになったはずのうつろな影が、沙羅の目の前でゆらりと立ち上がった。

「ベルヲ……返セ……ッ!」