ばきっ。
 ばきばきっ。

「あおおぉぉぉぉん──」

 本堂の中で、人々が変わり始める。骨がひしゃげ、身体がむくむくと膨らみ、黒い毛で覆われていく。

「ゆ、ゆーくん? ゆーくんっ! なにこれ、なんなのよう、これえ!」

 美玲が恐怖の表情を浮かべている。ゆうと、そのとなりの美玲、それから沙羅と大祇中学校のお姉さんたちは、変化がない。ゆうは、気がついたら目の前の肉を食べきっていた。

「ぎゃああっ!」

 見ると、村人の中でも何人かは「変化」してないらしく、その人たちから襲われていった。

「ひいっ!」

 美玲の足を隣に座っていた「スポーツ万能の茜だったおおかみ」が、がしっと掴んだ。

「あかねぇ、ボクだよ美玲だよ、はなしてよう、あかねぇ!」
「きゃあっ! 翔のおじさんっ、はなしてぇっ」

 沙羅もまた、押し倒されて襲われている。

『選ぶんだ。時間が無い。どちらもは助けられない』

 頭の中でベルの声がした。ゆうは考えるより先に、沙羅の方に駆け出して、足を掴む巨大なおおかみを突き飛ばした。

「ぎああああっ」

 後ろで絶叫があがる。茜だったおおかみが、美玲の喉元を食いちぎった。

「美玲!」

 ゆうは三メートルの距離を一歩で縮めたが、手遅れだった。

「お……がっ……ごほっ……お……」
「美玲! 美玲! ……くそっ」

 口と首を押さえながら噴水みたいに赤黒い血を吐いて、美玲は動かなくなった。

 ……美玲は、大祇小学校の最初の犠牲者となった。