かなかなかなかな、ひぐらしのなく夕暮れの山。
 ゆうはあのお屋敷の、あのバルコニーの中で立っている。

「よく来たね、愛しいきみ」

 大好きな、世界でたったひとりだけの女の子が、ほこりまみれの窓を開けた。マスクをしていないほんとの素顔の、そばかすが可愛いベルだ。

「ベル!」
「ゆうくん!」

 ゆうは思いっきり愛する吸血鬼を抱きしめた。

「会いたかった。会いたかったんだよ。……もう、どこへ行っちゃってたんだよ」
「あちこちできみを見ていたよ」

 ……居た。確かに、ベルがたくさん居た。あれは、なんだったんだろう。

「匂いだよ。肉の焼く匂いがしたろ? それにきみが反応した。私は……ここにいたよ、ずっと」
「居なかったよ、ここにも来たもん」

 ううん。ベルは少しだけゆうの腕から離れて、ゆうの心臓あたりをとん、と人差し指で押した。

「ここだよ。私はずっときみのここに居る」

 死んだ人みたいに言う彼女の言葉が、つらかった。

「私は君の中で、細胞ひとつから血のいってきまで。その中で生きてる」

 そういうと、ベルは笑って、心臓からゆっくり人差し指でなぞって、首を通って唇に触れた。そして手を伸ばして、ゆうの首にからめた。

「私は君に力をあげた。今から、それを使うんだ。生き残るために」
「……何から?」
「この村を縛る、呪いから」

 呪い……そんな恐ろしいものから生き残れる自信なんて、ゆうのどこにもない。

「ふふ。私はその為にきみにあげたんだよ。……それでも。少しでも気を許すと、殺される。この村の……呪いに」
「あおおぉぉぉぉん──」
「なんの声?」
「もう時間だ。きみに、私があげれる次の力をあげる」

 ベルは、キスをした。あの日みたいに、舌を絡ませて。

 ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。

 生き残るための勇気と強さをゆうにあたえた。

「さ、前を向いて。生きて。ゆうくん」

 ……