ゆうはゆっくり、奥の祭壇に向かって歩きだす。左右に居るのは外と違って見知った顔ばかりだ。それもそうだ、座っているのは大祇小学校の子供たちとその親、村のみんなだけなのだから。列の中ほどに、翔が座っていた。何も知らないゆうは「翔、翔!」と友だちの名を呼んだが、ぼうっとしてうつろな目で座っているだけで、呼びかけには肩をゆすっても反応しなかった。翔以外にも茜や航をはじめ学校を休んでいたみんながいる。けれどみな、翔のようにぼんやりするだけだった。
 列の奥に目をくばると、いちばん奥の座布団が空いている。

『ゆうちゃんにはなるべく美味しそうなやつあげるからさ……だから。いちばん最初に並んでよ。おねがい』

 沙羅が空けてくれたのだろうか。ゆうはそこに座った。左となりに、オタク少女の美玲がいる。

「あ、ゆーくん! もうケガ、大丈夫なん?」
「……うん、大丈夫」
「そか! 良かったー……でも、なにの臭い。鼻がもげそう」

 確かにひどい臭いだけれど、信じられないことに、周りのみんなはうっとりとしている。……みんなの瞳が、赤く光っているように見えたのは、見まちがいなのだろうか。

「まあでも、ごちそうは、待ちきれないよね」

 美玲はそれでも、ほっぺたを赤くしてゆうに言った。