『こっちだよ』

 ベルの声にゆうは本殿に向かって振り返る。血のように赤い扉が、いつの間にか開いている。
 ゆうは声に従って本殿に入ったが、同時に何かとてもいやな臭いがした。

(なんだこれ。くっさ……)

 ただ、分かったこともある。それは、本殿だと思っていた大きな建物はがらんどうで、お香をたく台以外何も無いということだ。すぐに洞窟に下りる階段への扉が開いている。
 がちゃん。ゆうが入ってすぐ外への扉は閉められた。
 洞窟の中は、外からは分からないほどに広かった。幅が二十メートル、奥行が五十メートル、高さも十メートルはありそうだ。左右に村人と子供たちが、片側だけでも七十人は並んで、敷かれたゴザと座布団の上に座っている。その前には何も乗っていないお皿が一枚置かれた、あし付きのお膳が置かれている。不思議なことに、おはしがない。背後には、鍾乳石が垂れ下がる洞窟の壁。壁にはガスランプが付いていて、洞窟内を明るく照らしている。
 一番奥は白い漆喰の壁で行き止まりだ。真っ赤な柱とたらされた緑の布、金色の神具が所せましと置かれた祭壇があって、祭壇の奥にはさらに扉がある。ゆうは、ここが本当の本殿なのだとわかった。
 がやがやと騒がしいので後ろをむくと、仮の本殿の脇の洞窟の内と外を隔てる赤の柵に、たくさんのあのなぞのヒトたちが群がっている。

「早く、早く食わせてくれ」

 みな、口々にそう言って柵にすがりついている。それはまるで昔見た映画のゾンビのようだった。