遅めの昼過ぎ。ほんのりお日様は傾いている。なのに山道のアスファルトは、山側はいつも湧水でぬれている。それを包むガードレールも苔だらけでいつだって緑色だ。ガードレールの外側はがけで、植林されたスギがたくさん並んでいる。道は、角田屋の方……つまり学校に向けて下っている。六月の湿っぽい空気が、裏の山の木々のいいにおいを運んできてくれる。梅雨がきらいっていう大人は多いけど、ゆうはすきだった。それに翔や沙羅とか他の女の子とたんけんで山に入る時は、雨でも関係ない。びしょぬれになりながら木の枝のつえをついて歩くのは、かっこよかった。
角田のおばあちゃんのお店は、ちょうど家と学校の間にあって帰りにお小遣いでアイスキャンデーをよく買う。こどもだけの、ちょっとした社交場だ。家の前の、車一台がやっとの細い道路を下って、学校から続く片側一車線の道路を右に曲がって、スギの木の林を抜けたところに、おばあちゃんのお店……角田屋がある。サビサビのシャッターがちょこっと降りてる、集落で唯一のコンビニ……みたいな白く塗られた木でできたお店で、角田屋という文字もかすれて読めない。
何人か子供がいて、笑い声が聞こえる。このうるさい声は……
「よお、ゆう! ベルちゃんにごちそうするとこ。あっ、お前のは無しな」
「……べつにいらないもん」
「んだよー、機嫌わりいな」
早速ベルちゃん呼び、と、女の子ならだれでもいい、翔らしいおどけた笑い声。いつもなら一緒に笑うんだけど、今日はなぜだかムカついた。
すると、彼女が小さな声で翔の背中に言う。
「あのね……私、食べれないんだ」
「だいじょうぶだいじょうぶ! ばあちゃんとこのはまじでうまいから! 食えばわかるって!」
「でも……」
「ばあちゃん、ソーダ味ふたつ!」
ごそごそと、短パンのポケットから銀色のお金をひとつ、角田のおばあちゃんにわたした。
角田のおばあちゃんのお店は、ちょうど家と学校の間にあって帰りにお小遣いでアイスキャンデーをよく買う。こどもだけの、ちょっとした社交場だ。家の前の、車一台がやっとの細い道路を下って、学校から続く片側一車線の道路を右に曲がって、スギの木の林を抜けたところに、おばあちゃんのお店……角田屋がある。サビサビのシャッターがちょこっと降りてる、集落で唯一のコンビニ……みたいな白く塗られた木でできたお店で、角田屋という文字もかすれて読めない。
何人か子供がいて、笑い声が聞こえる。このうるさい声は……
「よお、ゆう! ベルちゃんにごちそうするとこ。あっ、お前のは無しな」
「……べつにいらないもん」
「んだよー、機嫌わりいな」
早速ベルちゃん呼び、と、女の子ならだれでもいい、翔らしいおどけた笑い声。いつもなら一緒に笑うんだけど、今日はなぜだかムカついた。
すると、彼女が小さな声で翔の背中に言う。
「あのね……私、食べれないんだ」
「だいじょうぶだいじょうぶ! ばあちゃんとこのはまじでうまいから! 食えばわかるって!」
「でも……」
「ばあちゃん、ソーダ味ふたつ!」
ごそごそと、短パンのポケットから銀色のお金をひとつ、角田のおばあちゃんにわたした。