あのさ、とゆうを想う女の子が呟くように小さな声で言った。

「前、言ったじゃん? いちばんに来てって」
「うん」
「あたし、今日いちばんに入るの……だからゆうちゃんも、いちばんだよ」
「じゃあ、いちばんで始まるのを待つよ」

 うん。照れ屋なその子は笑みをこぼす。
 しばらくの沈黙。さっ、さっ。沙羅の履き物の音だけが鳴る。

「今日、神様の祝福を食べたら、さ。もうオトナなんだって。オトナってことは、さ」

 ぎゅっと、彼女の手をにぎる力が強くなった。

「恋……とか、しても……いいってコトだよ、ね?」
「沙羅……?」

 田んぼの広がる夕方の道。沙羅がゆうの手を離して、ゆうの前で、真っ赤な顔をして見つめた。

「あのさ……ゆうちゃん……あたし……さ……ゆうちゃんのこと……す、す……」

 その時。どさりと、真横を歩いていたおじいさんが倒れた。沙羅が心配そうにかけよる。

「大丈夫ですか……って、ちょっと!」
「あー? ……ひっく……」

 酒臭いし、着ている服はぼろぼろ、ひどい体臭だ。……ホームレス……の、ように見える。
 ろれつの回らないおじいさんは、道路に寝転んだままだ。

「ちょっとちょっと、こんなとこで……だめだよう」
「沙羅……なんか、変だ」

 ふと、ゆうがあることに気がつく。