「ふう。ほんとに、あなたって子は」

 お母さんは、ふうっと、もう一度ため息をついて、枕元に座った。

「あなたも始祖の力を持っていたなんて……やっぱりあの子、かしら。ベルベッチカ」
「知ってるのっ?」

 ゆうは出ると思わなかったその名前に、思わず大きな声を出す。

「あの子しかいないわね……はあ。それしかないわよね」
「ベルはっ! ベルはどこっ!」
「……ベルベッチカに会いたい?」
(会いたいか、だって?)

 会いたい。会いたいに決まってる。あの青い目の、あの金の髪の。あのほこりまみれの部屋にいた。あのかんおけの前で、赤いぬいぐるみと遊んだ。あの笑顔に……
 あの新月の晩の、ベルの柔らかな笑顔が心に残って抜けない。
 ぽたたっ……涙が止まらない。

「会いたい……会いたいよ……会いたいんだよ……」
「会えるわ」
「え……?」
「会えるわ、大祇祭の日に。だから行きなさい。明後日」

 そうとだけ言うと部屋から出た。
 トマトジュースに手を伸ばす。一口、含んだ……すんなり、飲めた。
 ふすまを開けて沙羅が入ってきた。

「どうしたの? おばさん、泣いてたけど」

 コップのガラスについた雫が、ぽたりと落ちる。吸血鬼が泣いているみたいだった。