沙羅の顔色が青くなる。

「え?」

 ゆうは沙羅の方を向いた。だからその叫び声を聞いた時、おばあちゃんの方を見ていなかった。

「ああああああ──!」

 物凄い絶叫で、まさかそれがおばあちゃんが発した声だと気づかなかった。びっくりしたゆうが振り返ると、座布団の上におばあちゃんはいない。どさっと、今度は角田屋の入口で何かが落ちる音がして、もう一度振り返る。見ると、角田のおばあちゃんが裸足で立っている。瞳を……真っ赤に光らせて。

「おおかみさま みこのたましい いただきたく そうろう」

 信じられないくらい野太い声でそう言った。……そして。
 めきっ。
 めきめきめきっ。ぴしっ。
 おばあちゃんは着ている着物を破きながら、三人の小学生の前で「変わり」はじめた。

「あ……ああ……」

 六月の恐怖を思い出したのか、沙羅が腰を抜かした。美玲も、え、え、と硬直している。
 みしっ。ばきんっ。
 ぐるるるる……
 全身をひしゃげながら、黒い毛を生やして、ゆうの目の前で。

 角田のおばあちゃんは、おおかみに成った。

「いやあぁぁぁああああ!!」
 沙羅が絶叫した。そしてとっさにゆうは、沙羅を「見て」しまう。おおかみはゆうの肩をがつんとかみついて、店のふすまをなぎ倒して、ゆうの頭を柱に打ち付けた。
 がんっ。愛用の帽子が宙を舞う。意識はそこでぷつりと切れた。