「ベルっ、ベルっ?」

 でも角田屋は、いつもの薄暗くてせまい店で、なにごともないかのようだった。……ベルベッチカ・リリヰなんて名前の女の子は、始めから居なかったみたいに……角田のおばあちゃんは、いつも座っている座布団の上でうつむいている。

「ゆうちゃん」
「ゆーくん、どったの?」

 女子二人が遅れて入ってきた。
「……なんでもない」
「なーんだ、てっきりボクらにおごってくれるかと思ったのにぃ」

 美玲がくちびるをツンととがらせる。

「……だいじょうぶ?」
「なにが」
「……だってさ……呼んでたし。あの子」
(ベル……大好きなベル……どこ行っちゃったんだよ……)

 けれどどんなに呼んでも、彼女が返事をしてくれることは無かった。

「……かみ……さま……」

 急に、角田のおばあちゃんの方からかすれた小さな声がした。三人とも、心底びっくりした……寝てると思ったから。

「お……かみ……ま……みこの……しい……いただ……そう……ろう」
「え……どうして……どうして知ってるの?」