「はい!」

 沙羅がお守りをわたしてきた。十字架の形をした白木で出来たシンプルな形のお守り。二枚の板を貼り合わせて作ってあって、その間に紙がはさまっている。おおかみと出会ったら、難しい筆の字で「子大祇之守護」と書いてある方を向ける……そして三回、となえる。

「おおかみよ ちいさきおおかみのみたまを ゆるしたまえ」

 小さいころから、お母さんから教えてもらっていたように口にした。ぴたりと音がやんだ。

「おおかみよ ちいさきおおかみのみたまを ゆるしたまえ。おおかみよ ちいさきおおかみのみたまを ゆるしたまえ」

 がさっがさっがさっがさっ……気配が小さくなってゆく。
 一分……二分……三分……四分。

「……行った……?」

 ふるえる女の子が声をかける。
 ……もう、大丈夫だろう。

「……うん」
「はあ、よかったあ……あたしまたもらすとこだった」

 沙羅が心底、ほっとして息をはく。

「あ、遅刻しちゃう、急ご!」

 そう言うと、走り出した。
 ゆうはまだ森の方を見て足を止めたまま、さっき聞こえた声に想いをはせた。

「……ベル……君なの?」

 返事は、なかった。

 ……

「はいはーい、みなさん、おはようございます。じゃあ、こくごの四十ページを開いてください」

 翔に航に茜が今日は休みだった。でもあゆみ先生は、三人が見えてないみたいに授業をはじめた。