「ん? なに?」
「へ? 何が?」

 ゆうは彼女を見たが、何も聞こえないのかきょとんとしている。
 がさっ……がさがさっ……
 突然、右手側の杉林の下り斜面からナニカの音がした。ゆうは足を止めた。

「沙羅」
「ん?」

 ゆうの呼びかけに、きょとんとしたまま答える。

「なにか聞こえる」

 がさっ……がさっ……がさっ……

 気がつくとあれだけ鳴いていたセミの声がしない。

「……なんかする?」
「しっ」

 ……視線を、感じる。

「ぐるるるるるる……」

 足音の方を見るが、ちょうど下生えが高くなっていて直接は見えない。でも、うなり声がすぐそばから聞こえはじめた。

「沙羅、お守りお願い」
「わ、わかった……」

 彼女はゆっくり赤いランドセルを下ろし、視線をそらさないようにしながら、中を探る。

 がさっ……がさっ……

 足音は確実に大きくなっている。もう二メートルも離れてないかもしれない。