「ゆうちゃん!」

 令和六年七月十日、水曜日、七時五十五分。
 もうこの時間から太陽は高くて、セミもみんみん鳴いている。真夏のお日さまは、スギ林をぬける道をかんかんと照らした。可哀想に、ミミズが何匹も干からびて死んでしまっている。
 そんな暑い朝の通学路、二番目に家の近い沙羅が後ろから声をかけてきた。
 樫田沙羅。ツインテールに、いつも赤いリボンのゴムをつけている。八重歯の目立つ歯。背は低くて、百三十あるかないか。ベルに会うまでは、ゆうが会った中でいちばん可愛い女の子だった。

「いこ!」
「うん、いいよ」
「あれ、翔は?」
「ああなんか今日は休むって」

 ゆうは帽子を直してはみ出た髪をしまったあと、少し歩くペースを落とした。水色の可愛い靴をはいた隣の女の子に合わせる。

「大祇祭、もうすぐだね! あたし『お膳立て』やるんだよ。緊張するー」

 大祇神社の宮司さんなのは彼女の母方のおじいちゃんだ。だから、大祇祭でも重要な役割を任せられているみたいだ。
 ……大祇祭。この村で十二年に一度行われるお祭り。村中の人たちを集めて、子供の成長と村人の健康を祈願する……とこの間のプリントで習った。たしか、何かを食べさせられるらしくて、翔はやたら楽しみにしていた。
 ゆうは聞きたいことがあったのを思い出した。