村までは二十キロはある。それに上り坂だ。でも、クルマは夫が仕事に使っていてなかった。
 けれど何より、今すぐに会いたかった。その一心で、走っていた。
 上空を、戦闘機が何機も通り過ぎて行った。
 がーん。がーん。
 山の向こうで何度も砲撃の音と、真っ黒な煙が何度も上がった。そして、何機目かの戦闘機が通った後。
 どどどどどど。
 この世のものとは思えないものすごい爆発音と何かが崩れる音がした。
 それでも、沙羅は走り続けた。「作戦」を終えた戦車の群れが、沙羅の前から後ろへ過ぎていった。
 もう沙羅は息をすることすらままならなかったけれど、なんとか、なんとかしてあの「大祇村」を目指した。
 そして。
 大祇村の入り口であるはずの場所まで辿り着いた。けれどもう沙羅には、そこが村かわからない。
 なぜなら、集落があった場所全体が山ごと崩されて、跡形もなくなっていたからだ。命がそこにある気配は、何一つ残らず破壊し尽くされていた。あまりの光景に、肺腑を抉られた。
 土砂の上をなんとか歩いて、しばらくだったころ。

「大祇村立大祇小学校」

 辛うじてそう読める石が、転がっていた。