その翌年。子供が産まれた。毎日が飛ぶように過ぎていった。夢は時々見たけれど、彼女は徐々に忘れていった。

 あの村を去って、三十年が経ったころ。
 日本は隣の専制主義超大国と戦争になり、あっという間に負けた。首都や大都市は瞬く間に共産党の支配下になり、自由と多様性は失われた。そして、この国が明治の頃に行ったように、人外のモノに対する弾圧と絶滅が行われるようになった。

 あの村を去って、五十年後。戦争が終結して、二十年が経っていた。
 少数民族や人外のモノへの抑圧・弾圧の波は、こんな東北の山奥にまで迫っていた。
 このころからである。沙羅が望郷の念に駆られるようになったのは。

 ある寒い冬の朝、ポストを見に外に出ようとすると、やけにうるさい。なんだと思って扉を開けると、戦車や装甲車の列が、沙羅の家の前を通って行った。
 反射的に念頭に浮かんだのだ。あの村の景色と、あの幼なじみの笑顔が。
 気がつくと走り出していた。丁度最後の装甲車が通過した後だった。

 ……