「大丈夫さ。僕はここに残って、沙羅たちは隣の市に引っ越す。それだけだよ」
「でも! 滅多に会えなくなるんでしょ? そんなのやだよ!」
「沙羅。もうゆう君はヒトから遠く離れてしまった。これがいちばんなのだよ」

 おじいちゃんは懸命に孫娘をさとす。

「ゆう、後悔は、ないんだな?」

 彼のお父さんはメガネをくいっとした。とても、優しい目に感じた。

「うん、ない」

 やだよう、やだよう。沙羅は最後まで泣いていたが、結局、おじいちゃんに言いくるめられた。

 おじいちゃんのトヨタのミニバンに乗り込んだ。
 沙羅、おじいちゃん、ゆうちゃんのお父さん。
 この村に残っているヒトは、もうこの三人だけだ。

「それじゃ、ゆう君」
「ゆう、元気でな」

「沙羅」

 ゆうちゃんが呼んでいる。でも、沙羅は後部座席に顔をうずめたまま、返事をしない。

「元気でね、沙羅」

 涙が、後から後から出てきて止まらない。だからこのまま出して、とおじいちゃんに言った。
 クルマが動き出した。それでもまだ未練があって、こっそりリアガラスから覗いた。
 あ。
 手を振るゆうちゃんの後ろに。
 ベルベッチカ・リリヰと、ゆうちゃんのお母さんが、立っているのが見えた。

 ような気がした。