「いいんだ。僕にとっては、ベルもお母さんも、お母さんだから。お母さんから貰った愛は、全部僕が受け止めたい。……そして、僕がこの村の新しい始祖(オリジン)になる」

 お母さんは息子の名を呼びながら、ほっぺたを涙でぬらした。

「まだ……私をお母さんと呼んでくれるのね」

 当たり前じゃないかと、ゆうは笑った。

「お母さん、はお母さんだよ」
「ありがとう……ねえ、いつものちゅう、させて?」

 お母さんはねだった。ゆうは涙を浮かべた笑顔で答える。
 もちろんだよ、と。そう言うと、お母さんの唇を自分のおでこに当てた。

「愛してるわ。ゆうちゃん」
「僕もだよ。お母さん。……さようなら」

 それから、数時間かけて、噛み締めて。喉に詰まらせないようよく噛んで。ゆうは……髪の毛一本、血のいってき残さずに。お母さんを食べ尽くした。
 相原静の舌の味は。
 どんなヒトより寂しがり屋で。どんなヒトより、甘えん坊な……
 ……お母さんの、味だった。