「簡単よ。あなたの両手で、力を込めるだけでいい。そしたら、この長い長い呪いに帳尻を合わせられる。あなたも、沙羅ちゃんも、この村から自由になれるわ」

 ゆうはお母さんの目をじっと見つめた。

「さ、お願い。ゆうちゃん。私、そうしないと死ねないの」

 その時。ふと、ベルの言葉が頭に浮かんだ。

『これで、私はもう、大丈夫。きみの中で生きることにした』
『娘よ、私のこの世でいちばん大切な、エレオノーラ』
『私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も』

「お母さん、僕、お母さんを食べるよ」

 お母さんは、信じられない、という顔をしている。

「ベルが、身を以って教えてくれた。お母さんも、僕の細胞の隅々に行き渡らせて、生かすんだ」
「でも、そんなことをしたら、ヒトに戻れなくなるわ」