けれどもあの時。
 自分の妊娠に気がついて、みんなにお披露目してしばらく経ってから。自分がヒトと同じように子を成してから、しばらく経ってから。

 急に恐ろしくなった。

 初めは何故かわからなかった。ただのマタニティブルーだと、そう思っていた。けど、違ったの。
 お母さんは……私はね、お腹の子が弱点だと考えるようになっていたの。今まで自分が殺してきたヒトと同じ、弱い存在なんだと。
 とたんに全てが怖くて怖くて仕方なくなった。
 自分と同じ力をもつ、妹……あゆみ先生が。自分が殖やしてきた、おおかみたちが。おおかみを殖やして作り上げた、この村が。
 私が? 私がこれからも、このモノ達全てのオリジンなの?
 こんなに弱くて、こんなに弱点だらけになった……いいえ、初めから弱点だらけだったこの私が、オリジンを続けるの? このまま? 永遠に? ……とても。とても耐えられなかった。
 ……私はね、逃げることにしたの。この村の全てから。満月のモノから。あなたの、お母さんから。お腹の子の、お母さんから。
 だから、あなたのお母さんだなんて、言う資格は無いの。初めから無かったの。
 私は、妹と一緒に二百年以上前に狼から産まれただけの……狼でも満月でも新月でもない、ただの。ただの。

 弱い、人間だった……