ゆうは言葉が出ない。

「ふふふ。そうでしょう? あなたをダシに体よくお父さんとも一緒になって。ヒトとして体裁を繕ってヒトのマネゴトをして。三人で家族ごっこをやって。……お母さん、楽しかった。とても楽しかった。……そしてね」

 お母さんは目をつぶった。

「赤ちゃんを、ヒトとの間に本物の赤ちゃんを授かった。思いを遂げられて、本当に幸せだったわあ……」

 ゆうは、倒れた、お腹の大きいお母さんの身体を見た。

「でもそしたら、ある時ね。とても、とても恐ろしくなったの」
「……どうして?」

「自分が、ヒトと同じだと。そのことに気がついたから」

 ……

 あなたはあくまでもベルベッチカという供物から取り上げた、他人の子。
 お母さんは最強のおおかみ達のオリジン。弱点なんて一つもなかった。お母さんを脅かすものなど、この世にひとつも無くなっていた。だから、ずっとずっと、気づかないまま、あなたのお母さんを始めた。最強のオリジンのまま、あなたのお母さんを続けられた。