「あら」

 お母さんの「首」は、服のそでにご飯粒でも付いているのを見つけたかのような呑気な声で、呟いた。

「負けちゃったわ」

 とん、とんとん。
 壮絶な十分間だった。
 ふー、ふー。ゆうは爪を出した手をのばしたまま、息が整わず、動けない。
 辛うじて首を、お母さんの首が転がっていった方に回した。

「ゆうちゃん! すごいわねえ! よく出来ました」

 首はこちらを向いたまま、本当に、本当に優しい顔で微笑んだ。

「お母さん、感動しちゃった」

 お母さん。ゆうは、母親を見つけた迷子の子のように、走った。
 そして、「お母さん」を持ち上げた。十一年間お母さんだったその存在は。
 ……信じられないほど、軽かった。

「ふふ。……あーあ。ゆうちゃん。大人になっちゃったのねえ」
「お母さん。お母さん、どうして……」
「お母さんはねえ」

 優しい笑顔の首は、優しい涙を零す息子に、胸の内を語った。

「……ベルベッチカちゃんから、ゆうちゃんを取っただけの、ただのバケモノ。本当のお母さんは、ベルベッチカちゃんなのよ」