「そんなに幸せそうなのに、なにが怖いの?」
「はっ、はっ……ふ、ふふふ。も少ししたら、はぁ、はぁ、教えてあげる」

 お母さんは息を切らし始めた。けれどもゆうを見るあの笑顔は、いつものお母さんのものだ。

「もう少ししたら、ね」

 お母さんから、飛びかかった。
 それを、新月の目が初めて捕捉した。

 決定的に異なる点とは。
 お母さんが片腕がないことではない。妊娠していることでもない。
 ゆうがベルベッチカを宿していることではない。瞬間再生できることでもない。
 それは。

 この戦いが始まって、初めてである。お母さんの攻撃の予兆を読み取ったのは。
 だから、ゆうは知覚できた。十数年かけてもベルベッチカが成し得なかった、満月のオリジンの攻撃の知覚化を、今この瞬間、ゆうは成し遂げた。

 それは。新月のモノだからではなく。満月のモノだからではなく。
 無期限の寿命を持つ、「成長の止まった種族」ではなく。
 それは。
「ゆうがヒトとして十一年生きてきたから」である。

「うわぁぁあああ──!」

 ざんっ。お母さんの攻撃をかわしたゆうの爪が、お母さんの頭を、すとんと落とした。