「親ってのはね」

 流れ落ちたはずの血が、雫になって空中に静止する。ゆうの新月の目でも捉えきれない袈裟斬りが胴体を斜めに切り裂く。ベルベッチカの胴体も、これで分断した。ゆうは内蔵を撒き散らしながら後ろに倒れた。

「子供が挑んできたらね」

 そこに「下から」追撃を与える。ぼきゃっと、今度こそ脊椎をへし折って、上半身を完全に引きちぎって廊下まで蹴り出した。

「体当たりで受け止めるものなのよ」

 廊下でごおっと風が吹いた。次の瞬間、五体満足のゆうが満月の目より速く飛び込んできて、左腕に一閃を見舞う。お母さんはきゃっと悲鳴を上げると、左腕が肩より先からちぎれて、ぼーっと立つ沙羅の横に落ちた。

「じゃあ、受けてみて。僕の思いを」

 その後も攻防は続いた。
 ゆうは切り裂かれ、引きちぎられ、砕かれ、吹き飛ばされた。しかしその度に、何事も無かったようにゆうは立ち上がる。
 立ち上がる度に、精度が落ちていくお母さんの攻撃。
 そして、七十六度目の斬撃で、ようやく。ようやく両者の戦闘力は、完全に拮抗した。
 しかし決定的に異なる点が、あった。

 お母さんは、残った右腕でお腹をさする。少し、大きくなった、お母さんのお腹。
 とても、とても幸せそうに。