ゆうは今度こそ訳がわからなくなり、がまんできなくなった。

逸瑠辺(へるべ)さん! さっきから新月とか満月とか、会えなくなるとか! 言ってることが全然……」

 すると、とん、三メートル離れたゆうのところまで、座った状態からいっしゅんで飛んだ。そして、マスクのままゆうの耳元でささやいた。

「マスクの下、見たい?」
「え」
「見たいでしょ。わかるんだ、私」
「う、うん……」
「七月六日の土曜日。新月の晩。きみの家にむかえに行くから。その時に、見せてあげる……待っててね。きみは私にのこされた、たったひとりの同胞(はらから)なのだから」

 そう耳打ちすると、二歩下がった。

 ……

 ゆうは、部屋を出た。雨は本降りになっている。とりあえず一階まで降りなくてはならない。バルコニーのツタにしがみついた。四時すぎだ。雨のせいか空は重たく薄暗くて、部屋の中は外から見ると真っ暗だ。不思議なその子はゆうの見えるところまで出て来てくれた。そして、青白い二つの光は、じいっと。ツタにつかまり下りるゆうを見ているのだった。

 ……