お母さんが笑う。

「さあ? 僕の中のベルが、勝手にやってくれるんだ」

 ぴきぴき……と、お母さんの満月の爪が開放される。

「じゃあ、こういうのはどうかしら?」

 お母さんが見えなくなる。一秒の千分の一より短い時間で、ゆうの周囲三百六十度全方位から、同時に爪をあらゆる方向から振り下ろす離れ業を演じた。それは、ゆうの知覚を大きく離れた超神速だったが、新月の目は五十四連撃全てを防ぎきった。
 あまりの速さの攻撃に、五十四の衝突音は、常人には一回しか聞こえないだろう。
 お母さんの左肩から噴水のような血が吹き出す。お母さんは不思議そうにそれを眺めた。

「あら。血ってこういう風に出て、これくらい痛いのね」

 そして、ほっぺたを両手で押さえて笑った。