それだけ。それだけなのに。

(なぜ。なぜ、出来ない? ……私はオリジン。おおかみたちを束ねる最強の始祖。私に成し遂げられないことなど、ないはず)

 静は、逡巡していた。

 数瞬後、夕暮れの教室の中で風が吹き始めた。窓を見る……きちんと閉まっている。
 と、いうことは。静は、すぐにピンと来た。
 ごおおおっ! 風はたちまち黒い竜巻になり、教室の壁に貼られた習字の紙がちぎれ飛ぶ。
 静は、右手の衝撃波で、ベルベッチカの身体を原子レベルで消し飛ばした。文字通りチリに還したのだ。だがそれが今、チリから最大出力の再生が始まっている。そんな芸当が出来るのは、たった一人しかいない。
 ベルベッチカの力を得た、静の息子、ただ一人である。
 ごおおおおおおお──!
 竜巻はやがてひとりのヒトの形を得て、ゆっくりと立ち上がる。

「そうよ……そうよゆうちゃん! それでこそ私が育てあげた、破壊と破滅のこどもだわっ!」