「おおかみにやったのと同じだよ。私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も」

 ゆうは恐る恐る、一番なってほしくないことを聞く。

「ベルとは、もう会えなくなるの?」
「完全に一体になるからね。愛しいきみが私を認識することは出来なくなるよ」

 そんな……ゆうは下を向いた。いやだ。ベルに会えなくなるなんて。

「沙羅ちゃんが、姉のオリジンに囚われている。奪還に失敗した」

 ハッとした。

『ゆうちゃん!』

 自分を愛してくれる女の子の顔が浮かんだ。

「マザーの真実の他に、沙羅ちゃんを助けたければ……行くんだ、愛しいきみ」

 ゆうは、ぎゅっと、こぶしを握りしめた。

「忘れない。ベルのこと。永遠に」
「そうさ。それでいい。私の愛しいゆうくん」

 ベルは近づいて、ゆうの肩に腕を絡めた。

「私を食べて? 大好きな、大好きな、きみ」

 そして、キスをした。何度も、何度も……舌を入れて。

(舌から、食べて。あの時みたいに)

 ベルの心が直接伝わる。ゆうは新月の牙をだして、その舌を噛んだ。
 ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。
 どんなものより優しくて。どんなものより、温かい……
 ……お母さんの、味だった。