翌日。大祇神社仮本殿。二人のヒトが礼拝している。

「おぎゃあ。おぎゃあ」

 姉が置いた赤ん坊に、男の妻はさっそく反応を示した。

「あなた、見て、ほら、赤ちゃん……神様が下さったんだわ……おおかみの神様が」

 男は赤ん坊を拾うことに躊躇している。

「そんなことありません! この子は今日から私たちの子供よ!」

 しまいには警察に届けるなどと言う。この村には警察なんて在りはしないのに。

「何言ってるのっ! 絶対、絶対嫌よ! この子は、この子はもう私の! 絶対に手放すもんですか」
「でも、対価が……」

 そして赤ん坊を抱く女の方のヒトに、神社の階段を上りきるタイミングで、やぶの中から石つぶてを知覚できない速度でくるぶしに当てた。女は百段近くある階段から七十七段目まで落ちた。狙った通り、赤ん坊を必死で守って、最後に後頭部を打ち付けてくれた。

「静、しっかりしろ、静!」
「あなた……この子を……」

 ああ、可哀そうに。女の方は脳挫傷で助からない。でも、大丈夫。

「取り戻したい? 対価を? それなら」

 姉は、相原静の姿に成って、相原毅の前に現れた。そしてやさしく微笑んだ。

「今日からその子の母親は、私ね」

 与えるも奪うも、すべては彼女の一存であるのだから。

 ……