「姉様、あの山に帰りましょう」
殺しても殺しても、襲いかかってくる新政府軍と新月のモノたち。姉妹は細々と命脈を保ってきた。中でもその日は言語に絶した。朔の日で、覚醒した新月たちを三人も相手にした上に、それを新政府軍に見られた。百人以上の軍人をかみちぎった。
修羅場を潜り続けてきた姉は、もう疲れて果てていた。そんな時、妹が言ったのだ。
「母様と父様が待つ、あの山へ……」
「そうね。少し……疲れたわね」
二人は雪の夜、東京から鼻を頼りに、歩いた。歩いて歩いて、歩き続けた。
そして、遂にその山を見つけた。母様のお乳を飲んだあの洞窟も、妹がすべり落ちた崖も。そのままあった。けれど母様も父様も、とうに居なくなっていた。
「もう、お終いです、姉様。私たちの居場所は、この世のどこにも無くなってしまった」
「いいえ、妹よ。居場所なら作ればいい。ここを、私たちおおかみの村にしましょう」
百五十年前の、この雪の夜。
大祇村は東北・岩手の山奥に、ひっそりと誕生することになったのである。
殺しても殺しても、襲いかかってくる新政府軍と新月のモノたち。姉妹は細々と命脈を保ってきた。中でもその日は言語に絶した。朔の日で、覚醒した新月たちを三人も相手にした上に、それを新政府軍に見られた。百人以上の軍人をかみちぎった。
修羅場を潜り続けてきた姉は、もう疲れて果てていた。そんな時、妹が言ったのだ。
「母様と父様が待つ、あの山へ……」
「そうね。少し……疲れたわね」
二人は雪の夜、東京から鼻を頼りに、歩いた。歩いて歩いて、歩き続けた。
そして、遂にその山を見つけた。母様のお乳を飲んだあの洞窟も、妹がすべり落ちた崖も。そのままあった。けれど母様も父様も、とうに居なくなっていた。
「もう、お終いです、姉様。私たちの居場所は、この世のどこにも無くなってしまった」
「いいえ、妹よ。居場所なら作ればいい。ここを、私たちおおかみの村にしましょう」
百五十年前の、この雪の夜。
大祇村は東北・岩手の山奥に、ひっそりと誕生することになったのである。

