五十年の月日が流れた。
 時代が江戸から明治に変わった。新政府は、近代化と称したヒト以外のモノたちへの弾圧が始まった。五十年もの間全く変わらぬ美貌を持った姉妹は、あっという間に人外の存在として、マークされた。新政府軍の幹部が遊郭に乗り込む。その日はちょうど、満月の夜だった。銃を突きつけられた妹を見た姉は、自分の中に強大な力が溢れるのを感じた。本能のおもむくまま着物を破りおおかみになった姉は、地を揺るがすような遠吠えをした後、軍人たちを喰らい尽くした。
 ヒトに戻った姉妹はしばらく震えていたが、不思議なことが起こった。さっきまでヒトだった軍人たちが起き上がり、おおかみに成ったのだ。とっさに、妹は遊郭に火を放った。その時に姉は大きな火傷をしたが、遊郭から逃げ出すことには成功した。追手は、姉が刀すらへし折る自らの爪で皆殺しにした。
 姉妹は男どもの相手をする地獄からは逃れられたが。新月のモノと、新政府軍に追われる地獄が始まった。

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