神社を過ぎて二十分以上、上り坂を歩いただろうか。学校を出てゆうに三十分以上は過ぎている。こんなとこまで大祇小学校の学区なのかなと、不思議に思っていると、山の頂上、峠付近で道が左に大きく曲がっている。そこを曲がると……右手の谷側に向かって伸びる小道の先に、大きな建物が姿を現す。「お屋敷」だ。昨日見た通りに埃とツタまみれで、人の気配はない。門も鎖で施錠されたまま。ゆうは門をがちゃがちゃとゆすった。

「よじ登ろっか?」
「よじ登る? ふふ。はずれ」

 そう言うと、逸瑠辺(へるべ)さんはひょいっとゆうをすくい上げてお姫様抱っこした。

「ちょっと、僕は女の子じゃない!」
「はは。そうだね、そうだったね」

 次のしゅんかん。ゆうは宙に浮いていた。彼女はゆうを抱いたまま、そのまま二階までジャンプした。

「ええ……っ?」

 目をつぶるひますらなかったが、確かに今、門の前からバルコニーまで飛んだのだ。そして、子猫でも置くかのように、ゆうを優しくそこに立たせた。
 今起きたことを呑み込めず戸惑っていると、おもむろに逸瑠辺さんがバルコニーに面したほこりまみれガラス窓を開けた。中の部屋は同じようにほこりとカビの臭いでいっぱいだった。天井のすみにも、吊り下げられたランプにも、クモの巣がドレスみたいに垂れ下がっている。見たことの無い草模様の壁紙は、所々めくれて壁材が見えてしまっている。何も無い、二十畳くらいの部屋だ。
 ……いや、ちがう。かんおけだ……細長くて六角形の。よく映画で見る、ふたをずらした真っ黒いかんおけが、部屋の真ん中で沈黙を守っている。そしてその子は窓に手をかけたまま、ゆうの方を見てマスクの下で笑った。

「着いたよ。上がって」