その姉妹は、狼に産み落とされた。
 母様の乳を飲み、父様が捕ってきたシカやイノシシの肉を食べた。東北の冬はとても寒かったけれど、母様の毛皮はとても暖かくて、父様はとても凛々しかった。ヒトの姿をしていたけれど、母様も父様も、他のきょうだいと変わらず愛してくれた。渓流に面した大きな洞窟を巣穴にしていた狼の家族。寒いけれど、暖かい日々。姉妹は愛に包まれて育った。
 姉妹が四歳になったころ。他のきょうだいと一緒に狩りに出ていた。シカを追っていた。大物でとても美味しそうで、だから気がついたら深追いしていた。いつの間にか母様が絶対に近寄ってはならないと言っていた、ヒトの里に近づき過ぎていた。
 妹が崖から落ちて気を失った。きょうだいは母様を呼ぶため遠吠えをした。
 しっ! と姉は制したが、遅かった。
 だーん、と聞いた事のない雷のような音がして、きょうだいは血を吹いて倒れた。