「……ベルベッチカ……」

 それでも、負けない。負ける訳にはいかない。ばきんっ、と新月の爪を解放した。

(脚が無くったって! この爪さえあればっ)

 しかし、つぎの瞬間。オリジンは爪を縦に振るった。それは凄まじい衝撃波となり、ベルベッチカは守るべき少女の目の前で跡形もなくばらばらにされた。

 ……

「きみ、愛しいきみ」

 冬の夕方。芯まで冷える、薄明かりの空の下。ゆうはあのお屋敷のあの部屋の、かんおけの横に座っている。いつの間に、いつから座っていたのかはわからない。けれどたしかに今、ここにいる。
 そして、自分を呼ぶ声に初めて気がついた。

「ベル……?」

 ゆうは立ち上がった。

「良かった。きみの細胞は、私の中でまだ残ってくれていたんだね」

 ゆうは愛しい母なる少女の名前を呼び、探した。
 ここにいる、との声に振り返ると、愛しい愛しいベルベッチカが立っている。笑って……いるように見える。