クルマも滅多に通らない、田んぼに囲まれた見慣れたふつうの道。校門前の丁字路を右に曲がった。……「お屋敷」の方向だ。げろっげろっ、カエルが可愛く鳴いている。そんな道を逸瑠辺(へるべ)さんが歩いていて、少し後ろをどきどきしながらゆうがつれ立つ。女の子なのに、黒のランドセル。おんなじだ、と思った。かっこいい、と思った。学校の制服もよく似合う。グレーのジャンバースカートから伸びる白いあしを見て、もっとどきどきした。腰まである髪が、ランドセルで別れて左右にゆるく広がって、風が吹くとふわり、といい匂いがした。

『とても……甘い……いい匂い。美味しそう』

 二週間前の逸瑠辺さんの言葉がよみがえる。彼女こそいい匂いだと思った。
 ふたりは急坂道を上って森に入ってまだまだ歩いた。左側は山に続く斜面。右側は谷底まで崖になっていて、谷底からする渓流の音が心地よい。
 神社を過ぎた。

(あれえ、いつもの道とちがうのかな)
「神社を抜けるのは遠回りだよ」
(……え。考えがわかるの……?)
「うん。読める」

 黒いランドセルの不思議な転校生は、金髪をふわりとたなびかせた。話しかけづらいと思っていたけど、ちがう。ゆうは、すっと背筋を伸ばして歩く後ろ姿がきれいで、ずっと見とれてしまっているのだった。