ベルベッチカ・リリヰは、脱衣所で服を脱いだ。血の気のない四肢で真っ暗な脱衣所に立つ。自分の両手を、じいっと見る。新月の目があれば真昼よりも明るく見えるのだ。

(あの子よりも、ずいぶん貧相な……)

 真っ白な肌。でも、五年生だったあの子のような健康的な白さではない。死体のような色なのだ。深海魚みたいだと思う。真っ暗闇の決して太陽の当たらない場所に生きる、魚。数万気圧の圧力に耐えながら、こいびとを待つ。七百年、血の出るような思いをして生きてきた。六百五十五年目にようやくこいびとを見つけた。深海に、光が差した気がした。愛しあった。精一杯生きた。子どもを授かった。
 追憶にふける。幸せだった、記憶。
 けれど、一筋のその光も、オリジンに吹き消された。えいえんに続いてと願った幸せは、半年で終わった。その手に抱くことの出来た幸せの結晶は、十三日で取り上げられた。