彼女は口を押さえる。

「あんまりだよ! 返してよ、あたしのゆうちゃんを返してよ! ベルベッチカちゃん!」
「魂が上書きされてしまったか」

 おじいちゃんが入ってきた。

「どうやら、私の細胞が、ゆうくんの細胞を置き換えてしまったらしい。七百年以上生きてきて、初めて経験する現象だ」

 沙羅は泣きながらうったえる。

「ベルベッチカちゃんはいいの? 大事な子供を、自分にしてしまって。それでいいのっ?」

 ベルベッチカは涙を散らした。

「いい訳ないじゃないかっ。私がこの世でいちばん大切な……大切な私の子供なんだっ。せっかく、せっかく取り戻せたのに、こんなの……こんなの……」
「……ごめん、ベルベッチカちゃん……」

 沙羅は目を伏せ、涙をこぼした。いいんだよ、そう言って幼なじみの少女の涙をぬぐってあげた。 

「……すまないね、寂しい思いをさせて」

 そして、立ち上がって、宣言する。

「必ずオリジンを倒して、ゆうくんを取り戻す。……あれから百人近いおおかみを食べてきた。力も全盛期より強くなっている。オリジンと刺し違えてでも、必ず、沙羅ちゃんの元へゆうくんを戻してあげる」

 再び泣いている沙羅の元にかがんで、手を取った。そして、水色の瞳で少女を見た。

「約束、だ」