ベルベッチカ・リリヰの舌の味 おおかみ村と不思議な転校生の真実

「? きみ、愛しいきみ」

 声は聞こえない。両の手を見る。骨ばって、ごつごつしている。相原ゆうの手じゃない。すぐわかった。割れたガラスに顔を映す。金髪の色が薄い。瞳の色も青ではなく水色だ。ゆうには無かったそばかすがある。

(『私』だ……『ベルベッチカ』だ……)

 ゆうくん。血まみれで誰もいない庁舎の中を、ベルベッチカは娘の名前を呼び、走り回った。
 けれど、愛しい愛しいわが子が、返事をすることはなかった。

 ……

 おじいちゃんの家に帰るなり、沙羅が叫ぶ。

「えっ、ベルベッチカちゃん? ゆうちゃんは? ゆうちゃんはどこへ行ったの?」

 すまない。ベルベッチカは、心からの詫びを口にしてうつむく。

「願いを叶えてしまった。私を取り戻すという。……ゆうと言う男の子は……もうこの世のどこにも居なくなってしまった」