ちょうど角田屋を出た辺りだ。鼻の頭にぽつりと当たった。

「ゆーくん、読んでくれた?」

 美玲だ。すぐ耳元で呟いた。思わず振り返るが、誰もいない。ぽつり。耳たぶに当たる。

「ゆう、おごってやるよ」

 翔が、いつもの帰り道でするように声をかける。ぽつり。頬に当たる。

「ゆーちゃん、宿題見せて」

 茜だ。そうやって、いつも、宿題を写させてあげていた。ぽつり。旋毛にあたる。

「相原くん、美味しかった?」

 結花が聞いてくる。……ああ。美味しかったよ。結花も、美玲も、翔も、茜も、みかも。
 ぽつり。ゆーくん。ぽつり。ゆう。ぽつり。ゆーちゃん……
 ざあっ。雨が本降りになった。

「じゃあさ、ゆうも食べてやるよ」
「そだね、ゆーちゃんにも味わってもらおう」
「うん、ボク、食べてもらえてすっごく幸せだったから」
「ね、相原ちゃん」